horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

小林秀雄の恵み

小林秀雄の恵み

小林秀雄の恵み

 第一回の小林秀雄賞を受けたことによって、本作を書く機縁になったと著者のかたる『「三島由紀夫」とはなにものだったのか (新潮文庫)』を買っていなかった、いや文庫になるのを待ってにせよ、買って読んだのだが、正直たとえば四方田犬彦人間を守る読書 (文春新書)』収録の短い三島論のほうがよいと思える。同性愛をカミングアウトしている著者なら「お仲間」として、もっと内在的な理解が期待されたのに、妙に突き放した書き方が意外でもあれば、失望でもあった。
 ところが今回は(といっても去年出た本だが)、突き放すまでもなく一見は接点のなさそうな(実際、中年になるまで読んだこともなかったらしい)対象を見事に論じ切っていて感動した。国文学の深い理解に立って、小林秀雄の近代人としての限界を明確に指摘してさすがである。
 小林『本居宣長』の読解を主とする評論で、著者は小林に興味はあっても宣長に興味はないというふうなのだが、著者が宣長に冷淡なぶんだけ一層、宣長に関心を持った。おそらく、三島に冷淡だった原因はこれかと気づかされた、いわばヲタ属性に対する著者の根深い嫌悪で、宣長にも冷たいのであろうか(あるいは左翼の宣長批判の根っこに同じものがあるのかもしれない)。