カール・シュミット『陸と海』
- 作者: カール・シュミット,中山元
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2018/08/23
- メディア: 単行本
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人間というのは、大地に生きる存在だよね。
と、カール・シュミットにしては(?)いささかカジュアルな出だし(娘にデディケイトだからか)と大きな活字が「読みやすくなった」のかも知れないが、角川書店で吉本隆明『共同幻想論』文庫化したときにそう宣伝しても特にそうなってもいなかったように、ほどなくそんな調子は消え去ってるのが竜頭蛇尾ならぬ蛇頭竜体だし、それにともない図書館蔵書の前の読者はそのへんで挫折したとおぼしい栞紐の位置だった。そもそも読みやすいかどうかは読者の関心の如何であって、文体や活字は枝葉末節なのだけど。
バトル・オブ・ブリテンで英独の戦闘機が空中戦たけなわの時期に執筆された、その敵である海(賊)の帝国イギリス論であるといっていいが、もちろん三流アジテーション文書のように敵を貶下するのでなく敵の本質的(エレメンタル)な手強さを書くのである。彼らの海戦は我らの(伝統的)陸戦とちがい非戦闘員を巻き込むことに躊躇はないのだというような指摘に面目躍如だ。
目下の自分の関心に引きつけてみると、日本で海の帝国の可能性があったのは(故橋本治は過小評価するが)平家政権なのだ。確かにまだ大洋的でなく内海的な段階に過ぎないが。ところがその平家にして海戦で源氏に敗れてしまった。その勝利者義経の、船頭や道案内の漁師、戦場周辺住民など非戦闘員を殺戮するのに躊躇ない(ことを杉本秀太郎が糾弾してるが同感)まさに海戦的性格は、むしろドイツ程度の「陸」でないユーラシア大陸的なもので、怪人鬼一法眼に授けられた「六韜三略」だけじゃない東北騎馬民族性ではなかったか。その義経もまんまと頼朝に粛清されて幕府(足利義満は例外)お得意の鎖国化してしまうわけだが。
そのユーラシア本家のロシアを(この本でもちょっと触れるだけで)甘く見てたのがナチスの敗因だろう。実は(この時点でまだ参戦しない)アメリカにしても大陸国家でもあるしね。