horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

井上靖『後白河院』

後白河院 (新潮文庫)

後白河院 (新潮文庫)

 この時代の一次史料である日記「兵範記」「たまきはる」「吉記」「玉葉」のそれぞれの記者が語る形式で、タイトルの人物像を浮かび上がらせる凝った格調高いものだが…。そうして権謀術数に長けた権力者の、愛する女にも心を許さない孤独を描いてるわけなんだけど、なんかやっぱりもっと(相対的に)若い橋本治三田誠広コンビ(同年生まれ)のほうが後白河のありかたをよく捉えていると思う。
 大岡昇平との論争で「蒼い狼」一件は大岡のほうの八つ当たりではないかという気もするのだが、批判の肝は近代的に限定された視野からする超(ないし没)歴史性ではないかという点で、この「後白河院」も近代的で、その近代性から同性愛が抜けてるために、後続の68年以降の(小説技巧では著者に及ばないかもしれない)世代に負けるのではないか。
 とりわけ橋本氏なんかは自家薬籠中のものといえる、スーザン・ソンタグいうところのキャンプ感覚に溢れた人物であろう後白河の院政を、当の橋本氏はフランス絶対王政にたとえるのだが、むしろマリオ・プラーツ『肉体と死と悪魔』(付録除いた)最終章「ビザンティウム」、具体的には(ほぼ同時代)コムネノス朝ビザンツ帝国にたとえるべきだろう。氏の学生の頃の世界史でビザンツって通り過ぎてしまって覚えてないのだろうが。