horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

アイスランドのハン

世界の文学 7 ユゴー/デュマ

世界の文学 7 ユゴー/デュマ

 前掲『肉体と死と悪魔』で知った小説。邦題は「氷島奇譚」というのだが、アイスランドは怪人ハンの出身地であるだけで物語の舞台では全然ない。文豪ユゴーの処女小説は、なぜか17世紀ノルウェーの(いわば江戸時代)話なのだ。
 なんでノルウェーなのかなって読んでるうちにポメラニア戦役*1なんて出てきて、なるほど当時フランスの仮想敵国プロシアの背後を脅かすデンマーク(=ノルウェー両王国)に親近感があったんだなと。100年後のマルロー『侮蔑の時代』なんかだとナチスを牽制するチェコスロヴァキアの軍事力にかけてた期待の虚しさを思い出さないでもない。
 だいたい『南総里見八犬伝』と同時代の、同じように伏線を張ってはすべてきれいに回収する考え抜かれた大衆文学で衒学趣味も似ているが、21歳でこれを書いたユゴーってのはさすがに「世界の」文豪である。スコットとともに西洋の時代小説の創始者だが、日本で時代小説が老人に喜ばれてベストセラーになるように今でもヨーロッパにはあるのだろうか。アメリカには西部小説、中国語圏には武侠小説ってのがあるんだけど。
 余談だが、司馬遼太郎山崎正和対談集『日本人の内と外』で山崎氏の紹介した、ある日本人が外国できのこ料理が食べたくてその絵を描いて注文したら傘を持ってきたというエピソードが、この本の月報に三宅艶子という人の書いているところではフランス語の教科書に載っていたデュマがドイツで経験した話としてまったく同じなのは、これいかに。
*S学会の出版部で全集出してるから、学会員だと今頃読んでるのもいないではないのか。

*1:調べてみるとデンマークはドイツと同盟してて勝手に合点したのと違ってた(苦笑)。