- 作者: 小谷野敦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/06
- メディア: 単行本
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初期の谷崎はこのような特殊事情必要なく、都会に独居してくすぼっているような若い男には普遍的なテーマを扱う点で、乱歩や横溝の変態小説と共通したものだ。だが、著者・小谷野敦の云うように乱歩は谷崎に逆(?)「影響の不安」を感じさせる存在だったか? これは大いに疑問だ。乱歩は近代の暗黒を面白がって享楽しているに過ぎないが、谷崎にはそれだけではない惧れと懐疑が深刻にあるわけで、これが後に、お子様向けの「怪人二十面相」になるのとノーベル文学賞候補の「細雪」になるのとの分岐になっている。自己の芸術に自負のあった谷崎であればこそ、乱歩とのこのちがいにも自覚的だっただろう。この見極めすらない「学者」の鑑識眼とはどうしたものだろうか。まあ、反証可能な事実の集積だけが「学者」の本分だとする著者の持論のしからしむるところではあるかもしれない。著者が日頃バカにする近頃の学生には、実にまさしく相応しい先生ではないのか。
ジャン=フランソワ・リオタールが著者によると大衆哲学者であるならば、その段ではなく通俗作家なのであろうコリン・ウィルソンの書く評伝に似ているといえば、気を悪くするにちがいないと知ってそう書いたが、筆者はコリン・ウィルソンのファンだから、むしろ誉めて通俗読み物として面白かったといっているのである。著者の「学者」という自意識がネタとしてではなく本当に本気なら疑問符がつくというだけで。「大谷崎」の由来も「長男としての谷崎」につなげていく話の展開としては面白いのだが、では谷崎精二は「小谷崎」と一般にいわれたことがあったのだろうか。
- 作者: Jr.,John E. Wills,ジョンウィルズ,中尾ゆかり,別宮貞徳,片柳佐智子,鈴木忠昌,徳植康子
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2004/09
- メディア: 単行本
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