horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

蔵書『太陽王と月の王』

 これがまたしても(というか)「はまぞう」で商品紹介を貼った文庫本ではなく、それが出る3年も前に手に入れた単行本の古本である。阪急南方(石川梨華が以前ドラマで新婚時を演じた細川ガラシャの墓が近くにある)の古書市で千円だった。このとき駅前の居酒屋でしたためた遅めの昼食、ご飯のおかわり自由だったのでしたらば、お菜の小鯵の南蛮漬けもおかわりさせてもらえたのを覚えている。何の話をしているんだったっけか? 当地で買った古本の話でしたね。これには「澁澤龍彦の本」と題した、レモンイエローの紙に表紙が著者近影(当時)、裏表紙に自筆原稿がそれぞれ緑で、開くと著者のこの書肆からの出版目録が図版・書評などの摘録とともに臙脂で、印刷された二つ折りのしおりが挿んであった。著者の真筆は、自分もそうなんでウレシクなってしまったが、おそろしく子供じみた手跡であって、書いてある内容と(著者としては心ならずも?)ナイス・フィットを見せている。では、それをここに書き写す。

北鎌倉だより あるいは永遠の幼虫
           澁澤龍彦

 今年は記録的な冷夏だというので、東京な
どでは蝉の声もほとんど聴かれなかったそう
だが、円覚寺の裏山につづく我が家の庭では、
樹が多いせいか、例年なみに蝉の声がかまび
すしく、八月にはいると、もうみんみん蝉や
つくつく法師が鳴きはじめた。
 庭に出ると、蝉の脱け殻がたくさん見つか
る。しかしそのなかに、おそらく寒さのせい
であろう、完全に脱皮することができず、幼
虫のすがたのままで、樹にしがみついて死ん
でいる蝉を見つけたのは痛ましかった。
 私は、その幼虫のすがたのままで、永遠に
羽化するチャンスを失った、あわれな蝉の二
三匹をひろって、客間のサイドテーブルの上
に飾った。永遠の幼虫という観念に共感をお
ぼえたからである。

(原文縦書き、蝉は虫偏に單の旧字)

 「精神の遊戯と物への好奇に満ちた/すばらしき小宇宙のパースペクティブ」(帯の惹句)の生物学的基礎(見た目もずっと少年ぽい人だった)を暗喩として言い当てているのではなかろうか。ちなみに著者はこの書に収められた「パイプ礼賛」にあるようにパイプ・スモーカーであり、シガレットではニコチンを肺で摂取するため肺癌になりやすいのだとすれば(参照)、パイプ吸引はニコチンを口中で摂取する(参照)ので、おそらくこの習慣によって喉頭癌になったのだろう(誤診で発見が遅れ声帯切除を余儀なくされた)。死因の頚動脈瘤破裂に喉頭癌か切除手術は関係ありそうと思えるが書いてない(参照)。