horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

続・古賀新一

 短編集である『魔女地獄―古賀新一傑作集 (角川ホラー文庫)』収録中の「養殖」という作品は80年代後半のホラー専門誌初出のもの。この頃は絵柄がライトになっちゃってるのが、ヘヴィメタル・バンドのベスト・アルバム中でポップな方向性を出した時期のナンバーに似た微妙なところだが、らしいリフやギターソロは健在、みたいな、これは割とらしいほうの作風だ。
 案外作者の自画像かと思える眼鏡越しの目つきのキモいおっさん(『エコエコアザラク』では魔法医学の病院長を演じるキャラクター)が主人公。こういう中年男が非常にリアルに描けてるのが年の功とはいえる。その、ナマコが好物(「海の幸はグロテスクな形をしてるほどうまい」)といって料亭にかよう男が、これでは金が続かないとナマコの養殖を始める。男の妻は浮気をしていて男とは対照的な美男美女のカップルになっている。本来は「海底のどろを食べて中の有機物の養分を吸収する」ナマコ、「しかし わたしの研究によると飼育によってはエサも変化していく それも限りなくあらゆるものを貪欲に食らい求める」というわけでエサが昆虫類(ゲジゲジ、毛虫、トカゲやイモリ)からドブネズミ(いずれもグロテスクなものをあえて選んでいるのはホラーの効果という以上に類感呪術である)とエスカレートし、ついに「しかし人間はどうしてナマコを好むんだ きっと人間とナマコは相性がいいんだな ということはナマコが好むのは――人肉!?」、前述のカップルがエサとして供されることになる。
 ナマコが「人間と相性がいい」のは人間の内臓と形態的に類似しているからだ。この主人公と形態的に類似した「院長」は、美女の腸を愛して、腸の飼育に成功している。石子順的な観点では嫉妬→殺人という人間社会にありがちな「悪」が描かれたにすぎないが、皮膚の表面同士の情事を嫉妬した以上の論理があると見るべきだ。
 今日の日記タイトルは、別にこの本に影響を受けて美女を殺して露出させた腸を愛したい(食べたい?)というようなわけでなく、レヴィ=ストロースの神話の見方にいささか(理解できる範囲で)影響を受けたというだけで、念の為。