- 作者: 井上章一
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川学芸出版
- 発売日: 2008/07/10
- メディア: 単行本
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かつて花田清輝は(第二次世界大戦)戦前戦後という現代史の区分に異議を唱えて、ロシア革命と中華人民共和国の成立を画期とすべきとしたが、この本で著者は鎌倉幕府と江戸幕府の成立を画期とする日本史の区分に異議を唱えて、応仁の乱の戦前戦後を提唱する。花田が(スターリン主義にもせよ)革命的とすれば、著者がはっきりと反革命的な立場をとっているのが、よくわかるだろう。著者の拠り所とする内藤湖南や宮崎市定の東洋史京都学派であるが、これらが戦中の軍部と親和的であったのは、異民族(この場合、日本軍)による中国統治の可能性をサジェスチョンしていたからだ。彼らの学風が背景とした、侵略という(連帯とも表裏一体の)キナ臭い国際関係を見ずに、ただ一国内的ローカルな関東関西の矮小な対立(花田ふうにいって「蝸牛角上の争い」)に落とし込む、一見凡庸なマスコミ水準の非政治主義に見えて、このオッサン実は相当な策士なんじゃないのかなあと逆に買いかぶってしまいそうだ。ちなみに著者が関西系の学者に挙げる林屋辰三郎は(事実そうだが)、元寇時の幕府の対応を評価(『南北朝 (朝日文庫)』)して、著者と対立する見解の今谷明『封建制の文明史観 (PHP新書)』(これにも問題はなしとしないが)と一致するし、前に紹介したが地元京都の共産党機関より東国日光東照宮の社務所に好意を持っていたのだ。