horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

箸墓幻想

箸墓幻想 (角川文庫)

箸墓幻想 (角川文庫)

 吉本隆明がインタヴューで好きな推理小説家として挙げていた。この作家の名探偵である浅見光彦が全国あちこち行く旅行雑誌の記者という設定の、ご当地ミステリで近所が題材になると、地元の本屋が平積みにして売るので、つい買って読んでしまったという人も多かろう。自分もその口で近所の話だけ以前読んでたのだが、これはもっとピンポイントの題材が気になって読んでみた。
 10数年前に読んだ「須磨殺人事件」だったか「須磨明石殺人事件」だったかも、地元の女子大生との交流があるのだが、本書でもやっぱり女子大生にボディアタックで迫られるのにキスだけで我慢するストイックな浅見探偵であった。著者は題材の取り方にしても国文学系の素養のあるらしい人で、それもあって吉本が認めるのだろうが、国文学系の女子大生(というのは数も多い)が(たぶん携帯ウェブ〜スマホ以前までは)ファンにかなりいた(その昔でいうと亀井勝一郎みたいな存在か)ので、探偵が特定の女性とねんごろになるのが一種のアイドル的に好ましくないのであろう。
 著者はどちらかといって箸墓=卑弥呼埋葬説つまり邪馬台国畿内説なので私の見解と違うが、考古学界の一大スキャンダルとなった捏造事件とシンクロして新聞連載された点が興味深い。実はトリックがそういうこともありうると予見していたのだ。それ以上に、ゾンビの恐怖や老女の妄執を生々しく描いて、この作家の想像力は古墳の意味を深く捉えているといえる。