horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

奮えー奮えー

横田順彌『火星人類の逆襲』

 ヨコジュンも一昨年亡くなっていてSFマガジンで追悼特集あったりしたんだが、70代の老人になったり病死するキャラじゃないのに…っていうのも無茶か。バロン吉元による錦絵ふうカヴァーアートが素敵なこの本は80年代当時SFに力を入れていたようにうかがえる新潮文庫で書き下ろしの一冊。
 日本古典SF研究家としての蘊蓄でH.G.ウェルズ宇宙戦争』の日本版続編を、明治44年押川春浪を中心としたバンカラ結社「天狗倶楽部」の活躍として描く。東京に「火星人類」が出現すると、この間ロンドンに現れたアレだと皆にピンと来るというように、ウェルズの「宇宙戦争」が「現実」にあった世界を舞台にしているのは、ゴジラが架空のキャラクターとしては存在しなかった世界を描いた映画『シン・ゴジラ』と対照的だ。しかし『シン・ゴジラ』におけるオタク系(アウトサイダー的)官僚チームに相当するのがこの「天狗倶楽部」という構造の類似性はある。
 何かあると「フレーフレー」をやり出す「天狗倶楽部」名物男・吉岡信敬は、なんとなく荷風の『おかめ笹』(この小説好きなのだが)の、荷風自身が(いわば文学の才能のなかった永井壮吉として)自己戯画化した登場人物を思い起こさせる。今でいうスポーツライターなんかやってたのも、この界隈っぽいのだが、若き荷風押川春浪巌谷小波なんかとつきあいがあったから、まんざら知らない世界でもないわけである。ただ荷風のそれは(女にうぶな硬派の吉岡とちがい)本人が投影されて芸者買いにうつつを抜かす軟派なのだが。
 もともとのアイドルファンには、オタクとともにバンカラの気風が実はあったりもする。むしろ、それがここに描かれたような明治に遡るオタクの初心だったのだろう。ヨコジュンもいい仕事を遺したものだ。