horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

小谷野敦著「すばらしき愚民社会」

[rakuten:book:11998289:image]
 ネットで物を言うような者はバカばかりなのは本書でいわれるとおりで、まあそのひとりとしてバカな意見をさらに一つ積み重ねる徒労をあえてしてみよう。出版界においてこれと同断ということか、粗製濫造の論者として野口悠紀雄齋藤孝と一緒に著者の挙げる鷲田小彌太氏の著書思考練習 (三一新書)を最近3冊100円で買った古本で読んだが、筆者にとっては著者も鷲田氏と同じカテゴリの論者であって、しかも鷲田氏のほうがよほど高い水準のインテリジェンス(情報)をもたらしてくれたと言い得る。
 また、著者にいわれるまでもなく近世のことを知りたく思い、よく読んでいるのがこれまた、政治と研究をごっちゃにして「よほど脆弱な学問をしている」と本書で論難された野口武彦氏の著書なのである。ベンヤミンの歴史の概念なんていっても、著者にすればドイツの大衆哲学者の戯れ言であろうけれども「実際にあった通りの過去ではなく、危機の瞬間に歴史的主体に思いがけず立ち現れてくる過去のイメージ」ということなんだな野口氏のいわんとして批判を受けたところは。そりゃポパーの「反証可能性」とやらに引っかかって「えせ科学」の烙印が捺されるようなもんかもしれないが、そんなことをいっていれば、それこそ「人生とは人の生きていることである」というような愚にもつかない辞書(その成立の前提は問われないのである)的「学問」ばかりになってしまうではないか。
 そのあげくに著者は、米英軍のイラク攻撃に賛成する立場をあきらかにしているが、たとえ故フセインが「殺してもよい」ような悪人であっても、米英軍によって打倒されなければならない理由はない。米英軍が中東にいること自体が悪である。アラブ人を子ども扱いして米英の干渉を正当化する「学者」が著者の絶賛する池内恵らしい。この理屈なら蒋介石独裁政権を打倒する戦前日本の中国での軍事行動も正当化されてしまうが、著者が「シナ」という当時の侮蔑のニュアンスがこもった用語を常用しているのも、反省といわんまでも想像力を欠いたことだ。もちろん、体に害があるなしの事実に関係なく、たばこの煙が臭くてイヤな人間のそばで一服することも、彼にとっては当然の権利なのだろう。
 何か一事が万事この調子というか、これまであまり気にならずに楽しんで読んでいた著者の根本的にイヤな部分があからさまになった著書だった。あと「新書であるなしに関わらず、日本にはナポレオン三世の評伝が一つもない」(p228)これは簡単に事実で反証可能だ。

怪帝ナポレオン3世

怪帝ナポレオン3世