horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

クレオパトラ―消え失せし夢

クレオパトラ―消え失せし夢

クレオパトラ―消え失せし夢

 今週のお題「プレゼントしたい本」、なのにプレゼントしようにも版元品切れという(マーケットプレイス¥1より、だけど)。まあ「お題」にかこつけて最近読んだ本を出しただけ(笑)。
 著者は大戦中のヴィシー政権閣僚、ヴェルサイユ戦犯裁判で死刑判決を受け(後、赦されて釈放)獄中で中東現代史の著作を書く(訳書あり)。(訳者によると)本書は「史上最長の夢」というシリーズで「アレキサンダー」「クレオパトラ」「ユリアヌス」「フリードリッヒ2世」「ボナパルト」「リヨーテ」「アラビアのロレンス」の第2巻(これのみ翻訳)。フリードリッヒ2世はプロイセンの大王でなく中世シチリア王だと思う。リヨーテは初代(仏植民地)モロッコ総督(四方田犬彦『モロッコ流謫』によるとこの人もゲイ)。この巻だけからもわかるが著者にはオリエント雄飛の「夢」があって、日本の「アジア主義」に似たような、いわば「オリエント主義者」なのである。ちなみにデヴィッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」をアジア主義者(とその挫折)としたらば「戦場にかける橋」は生産力理論による知識人の転向(と敗戦による挫折)を扱っていると日本人には読める。訳者的には専門の「ボナパルト」も訳してくれたらよかったのにな。
 全巻の三分の二くらい一章「シーザー」で、残りが(大半)二章「アントニウス」(少しだけ)三章「オクタヴィアヌス」(エピローグ)「消え失せし夢」という構成が当該人物への著者の評価に比例する。クレオパトラも第1巻アレキサンダーの「夢」をシーザーに媒介したという意味が持たされている。そもそも彼女はエジプト女王とはいえアレキサンダーの属僚プトレマイオスの末裔でギリシャ(正確にはマケドニア)人なのである。しかしギリシャ(ヨーロッパ)的な共和主義より(アレキサンダークレオパトラもそれに染まった)オリエントの専制に好意を持ってるらしい著者である。
 シーザー→アントニウスオクタヴィアヌスという流れは、なんとなく信長→秀吉→家康に似ている。さしづめクレオパトラ淀君か(信長の愛人でなく姪だが)。あるいは清盛→義経ジンギスカン説?)→頼朝、レーニントロツキースターリンともいえるか。トルコやアラブ贔屓の著者には反ユダヤ主義の底意があると思われ(ある種「転向文学」的志操)、つまるところファシストなんだろうが(原書は63年スイス刊行でフランス版は77年になってからというのも意味ありげだ)、政権確立者より「大いなる夢」を抱いた革命家(道半ばにして倒れる)をよしとする著者に共感を覚える。