horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

平林たい子毒婦小説集

平林たい子毒婦小説集 (講談社文芸文庫)

平林たい子毒婦小説集 (講談社文芸文庫)

 女学校を卒業した著者が上京するとき父親が「たとえ女賊になるにしても、一流の女賊になるんだぞ」と言った逸話が自伝にあって、旧弊な父には自立した女としてそんなイメージしかなかったのであるみたいにいってはいるが、親としてなかなか彼女の本質を見抜いている(著者としても同感だから印象的なエピソードとして書いたのだろう)。そもそも「鯛」(本名)というネーミング自体、当時の桂太郎首相の愛妾で政策に影響を与えたという「お鯉」(本妻と権妻の違いはあるが今の昭恵のようなもの)にあやかって、それの上を行くように名づけたのである父本人が。
 そうした彼女が一流の女賊を書いた作品集がすぐれたものでないはずがない。というより、これこそが本領発揮であろう。他に大衆文学的にヤクザ小説もあるんだが、これは自分が男だったらこうかというようなもので、(本来そうではないのにわざと最下層にやつした)プロレタリア文学私小説より登場人物が客観的で、美学的にも花柳界や任侠界のほうにやつしたりしてるほうが貧乏臭くなくてよい。
 彼女自身の体験が、三様の毒婦像に流し込まれリアリティを持たせて読みごたえがある。ただ原題の「炎の女」なら、本当に情交中に発火して男を焼尽するようなことを書いたり、逃避行中に情人が野中で狼に食われるのを木の上で見てるより、情人とともに自ら狼となって野を駆け回る方がおもしろい。そういうC・L・ムーアの方がいいなと思うのである。