- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1997/12/01
- メディア: 文庫
- 購入: 29人 クリック: 558回
- この商品を含むブログ (108件) を見る
その解説者のいう『ファウスト』的な探究を経てのグレートヘン的なヒロインとの半世紀を隔てる邂逅が、ハイデガーとアレントにWって感じられるわけだが…。アレントを読み解く小森謙一郎氏によるとゲーテが同化ユダヤ人の契機となる機微も含めて。
片山杜秀氏の指摘する小松のゾロアスター教(原子力の「火」による疫病やブラックホールの征圧)は、本作ではマニ教ないしグノーシス主義となっているか。悪しきデミウルゴスに反逆する天使的なものだが、月刊「ムー」(は70年代創刊だから本作の書かれた60年代頃のソースは黒沼健か)の主要コンテンツのひとつである「オーパーツ」の謎から導入されるストーリーでは、二元的な対立のなかなかどちらが善悪ともつかないもどかしさがサスペンスフルでもある。
一元的な文明史観が19世紀的で今では古臭く(端的に近代主義で)もあるが、この彼の(いわば)「サンダーバード」(60年代英特撮番組)的メガロマニアな科学技術とその破滅的災害を覚悟しながら決断するヒロイズムにイカレた一時代が今日の現実の(実際ホロコーストどころではないかもしれない)破滅を(いまだに認めない者もそのうち認めざるをえなくなるであろう)まねいたのではないか。