- 作者: クリストファー・セント・ジョンスプリッグ,Christopher St.John Sprigg,水野恵
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2006/10/01
- メディア: 単行本
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巻末で解説者が「なんとも奇妙なミステリ」といい、「夭逝の天才」と持ち上げても、ようするに奇妙なミステリを書いて夭逝した必然性をわかっていない。これは、たんなる「戦地」ではなくスペイン内戦に志願して人民政府側で戦い死した著者畢生の反ファシズム寓意小説なのだ。
ファシズムをカリスマ(グル)に帰依するカルトとして描いてるのが今にして先駆的だが、ヒロインの裏切られ方はむしろ著者の加担したスターリニズム的なのである。あるいは著者がファシストの銃弾に倒れたのならまだしもで、自らの描いたヒロインの憂き目にも似て粛清されて亡くなったとしたら(ありえないことではないのだ)悲惨この上もない。
おそらく内戦を生き残っていたら、遅くとも独ソ不可侵条約においては著者が転向したのは確実である。(著者の主観的には)反ファシズム人民戦線の思想をミステリという人口に膾炙するかたちで提供できる才も、「赤いゲッベルス」ヴィリー・ミュンツェンベルクのイギリス版といえる。