horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

クリストファー・セント・ジョンスプリッグ『六つの奇妙なもの』

六つの奇妙なもの (論創海外ミステリ)

六つの奇妙なもの (論創海外ミステリ)

 実はこのたびの処刑以前にオウムを回顧する機会として、こういうよほど通の人以外に知られているとは思えない本を読んだことがあった。これは本名だが別にクリストファ・コードウェル名義でものした『ロマンスとリアリズム』というマルクス主義的英文学史を読んで興味を持っていたところ、たまたま発見して早速読んでみたものである。
 巻末で解説者が「なんとも奇妙なミステリ」といい、「夭逝の天才」と持ち上げても、ようするに奇妙なミステリを書いて夭逝した必然性をわかっていない。これは、たんなる「戦地」ではなくスペイン内戦に志願して人民政府側で戦い死した著者畢生の反ファシズム寓意小説なのだ。
 ファシズムをカリスマ(グル)に帰依するカルトとして描いてるのが今にして先駆的だが、ヒロインの裏切られ方はむしろ著者の加担したスターリニズム的なのである。あるいは著者がファシストの銃弾に倒れたのならまだしもで、自らの描いたヒロインの憂き目にも似て粛清されて亡くなったとしたら(ありえないことではないのだ)悲惨この上もない。
 おそらく内戦を生き残っていたら、遅くとも独ソ不可侵条約においては著者が転向したのは確実である。(著者の主観的には)反ファシズム人民戦線の思想をミステリという人口に膾炙するかたちで提供できる才も、「赤いゲッベルス」ヴィリー・ミュンツェンベルクのイギリス版といえる。