horror of mean army ?

淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ねざめぬスマのセンチネル

久生十蘭「従軍日記」

久生十蘭「従軍日記」

久生十蘭「従軍日記」

 久生十蘭の著書で最初に読むのがコレという、おそらく極少の読者層に属する。しかも、著者の母は未婚で彼を生んで小原流の生け花(正確には盛り花)の師匠として生活費を稼いで彼を育てたという、専門の研究家でも知ってましたか?な豆知識を海野弘氏の最新の発見として先に知ってるなんていう者は絶無といえるのではないか。と、空疎な自慢?を披瀝してみる。
 これに限ると(読んでないから限るしかない)文体が筒井康隆みたいである。演劇青年あがりの経歴も近いせいか、二枚目やさ男の風貌も(長生きしてるほうの若い頃に)似てる。澄ましているかと思うと突然狂騒するような性格も近いんじゃないかな。小説は「魔術師」と称されるほど巧みらしいから、筒井康隆じゃ比較にならんかも知れないが、これから読むのが楽しみである。
 内容は、小林信彦著の小説「ぼくたちの好きな戦争」の元ネタみたいでもある(ちなみに発表はこちらのほうが後)。戦前モダニストの戦争・占領地(同じ蘭印)体験という点で。こちらはあくまで実体験(空襲など)を小説家の手腕で迫真に描写したもので、たぶん小説家としてこれにも格上なんだろうなあ。
 巻頭の橋本治解説「昔の大人の普通の日記」ってのは彼流の苦言なのかな? 戦中に書いた反米小説を戦後にそのまま反軍部小説に転用した事実が指摘されてる。そういうことを平気でやるのが「昔の大人の普通」であったと。それにしても、アメリカで日系移民が迫害された事実に十蘭が憤ったこと自体はまったく正しい。遺憾なことに、この被害がそのままアジアに転嫁されたのであるが、これはヨーロッパでホロコーストにあったユダヤ人がこの半世紀以上ずっとアラブ人を虐殺し続けている事実とひとしいのである。こういう本質的理解に達しないから実体として転向を重ねるし、現象的に筒井康隆に似てるのだ。