- 作者: 久生十蘭,小林真二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/10/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 3人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
これに限ると(読んでないから限るしかない)文体が筒井康隆みたいである。演劇青年あがりの経歴も近いせいか、二枚目やさ男の風貌も(長生きしてるほうの若い頃に)似てる。澄ましているかと思うと突然狂騒するような性格も近いんじゃないかな。小説は「魔術師」と称されるほど巧みらしいから、筒井康隆じゃ比較にならんかも知れないが、これから読むのが楽しみである。
内容は、小林信彦著の小説「ぼくたちの好きな戦争」の元ネタみたいでもある(ちなみに発表はこちらのほうが後)。戦前モダニストの戦争・占領地(同じ蘭印)体験という点で。こちらはあくまで実体験(空襲など)を小説家の手腕で迫真に描写したもので、たぶん小説家としてこれにも格上なんだろうなあ。
巻頭の橋本治解説「昔の大人の普通の日記」ってのは彼流の苦言なのかな? 戦中に書いた反米小説を戦後にそのまま反軍部小説に転用した事実が指摘されてる。そういうことを平気でやるのが「昔の大人の普通」であったと。それにしても、アメリカで日系移民が迫害された事実に十蘭が憤ったこと自体はまったく正しい。遺憾なことに、この被害がそのままアジアに転嫁されたのであるが、これはヨーロッパでホロコーストにあったユダヤ人がこの半世紀以上ずっとアラブ人を虐殺し続けている事実とひとしいのである。こういう本質的理解に達しないから実体として転向を重ねるし、現象的に筒井康隆に似てるのだ。