- 作者: 恒川光太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/10/11
- メディア: Kindle版
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大森氏の指摘のようにこの作品集は(私のこれまで読んだ著者の短編集三冊と同じく)単に集められてるのでなく、段階的に発展していくような構成をとっている。最初の前説のようなのが「純文学」として発表されてることが、著者の見解としてだけでなく、もうそのジャンルの限界とも感じられてくるわけだが…。
だから、同じ著者の短編集『秋の牢獄』の最初の一篇を自論(『時間ループ物語論 成長しない時代を生きる』)の付会に利用する浅羽通明はそれだけでも許しがたいが、著者としてはその後に発展させる契機でしかないことを目標にするそもそもの思想が志低いのである。厳しい現実の喩として頭の弱いオタク読者を脅しつける浅羽いつもの説教ネタに使っている(作中の)「北風伯爵」に、最後の一篇「幻は夜に成長する」のヒロインなどは自らなろうとしているといえるのだから。
著者のすべての作品に共通する、倫理的な感覚がもう、浅羽のシニシズムというか価値相対主義と相いれない。いわばポスト封建的仇討みたいなのが必ずあって、長編の『金色機械』なんかは『八犬伝』の「因果は巡る糸車」が、それまでの負債をすべて償還して落としどころにすっぽり収まる快感に、坪内逍遥以来の近代文学がまるごと仇を討たれているようでもある。つまりそこまで行く手前の段階しか浅羽なんかでは手に負えないのであろう。本書の一篇「迷走のオルネラ」はそういう勧善懲悪の「迷走」に自覚的で、なおやってしまう切断的な感じがある。これに出てくる悪役がまた網干左母二郎みたい(笑)。
こういった著者の作品世界を「読んだことがないという人にもぜひお薦めしたい。」とは、帯にも引用される解説者大森氏の言葉だ。