「壁」崩壊後3年の東欧を
ルポルタージュしての
全体主義論。ブレジネフ時代に訪れて書かれた著者の『
ソ連知識人との対話 (中公文庫)』と同じスタイルで、現地の知識人との対話を通じ、彼らに対する理解や批判から論じられている。彼らのことを自国の
全体主義を論じながら「自らの背中は見えていない」というようなことをいってるが、それは著者本人にも当てはまる。近年、左翼のせいで日本も
全体主義化してきたかのように著者はいうが、はっきりいって、日本は
明治維新というれっきとした革命この方、ずっと
全体主義だったのであり、「壁の向う」よりは程度が弱いというだけで、量的な差異にすぎない。
金王朝だけでなく、
ヒトラーにも
ムッソリーニにも(おそらく
スターリンや毛にも)垂涎の的だった近代
天皇制がしっかり残り、公務員天国の日本の知識人で、(「ご忠言」するとかどうとか)
天皇制擁護派で
行政改革にも反対(青少年に「奉仕義務」とかの規制を増やすのだという)の著者などは、「壁の向う」の
守旧派に相当するのであって、おもに改革派である対談相手に著者が内心いだいている優位の感情は根拠がない。ちなみに私は
アメリカ(
大統領制)も
全体主義とみなす。
基本的な立場として、以上のような批判はあるが、随所に示される知見には学ぶところの多い著者なので、実は愛読してるのだった。